「AIを導入したのに、成果につながりません」という相談をよく聞きます。
原因はたいてい、AIの使い方ではありません。効率化した業務が、そもそも成果につながる場所に無かったのだと思っています。
仕事は3層に積み上がっている
目標があり、それをどういう方向性で達成するかという方針がある。この2つを合わせて戦略業務と呼びます。
その下に、戦略業務を支える定常業務があります。定常業務は2種類に分かれます。
1つは、会社や部門、サービスを維持するための業務です。お客様の問い合わせ対応、申込書の発行。止まると事業が回らなくなるものです。
もう1つは、ベースの成果を担保するための運用業務です。毎日必ずXに1回ポストする。営業管理で週に1回必ずSFAを更新する。派手さはありませんが、これをやめると最低限の成果が落ちます。
仕事は、下から順にこう積み重なっています。
- 会社を維持するための業務
- 最低限の成果を担保するための運用業務
- 目標を達成するための戦略的な方針(戦略業務)
この3つが積み上がって、目標達成につながります。
どの層にも入っていない業務がある
問題は、この3層のどこにも属さない業務が、どの組織にもかなりの量あることです。
なぜ生まれるのか。始めるときには理由があったからです。 そして、やめる判断だけが誰にもされない。当時は必要だった報告が、状況が変わっても続いている。作った人が異動しても、資料だけが毎月更新されている。誰も困らないので、誰もやめようと言い出しません。
「AIを導入しても成果につながらない」とき、効率化されているのはこの層であることが多いと感じています。手をつけやすいからです。定型的で、時間がかかっていて、誰の判断も要らない。AIで自動化するのに、これほど都合のいい対象はありません。
そして自動化は成功します。作業時間は確かに減ります。ただ、減った先に成果がありません。もともと成果につながっていない業務なので、速くしても成果は動きません。
「この業務を効率化しました」と言う前に、「その業務は本当に必要な業務だったのか」を見直す必要があります。ここを飛ばすと、要らない仕事を高速化しただけになります。
維持業務を効率化しても、成果はすぐには動かない
もう1つ、見落とされやすい点があります。
会社を維持するための業務だけを効率化しても、成果へのインパクトは大きくありません。
理由は、この層の役割にあります。維持業務は下限を守る仕事です。止まれば事業が傾きますが、速くしたところで上限は上がりません。問い合わせ対応を半分の時間で回せるようになっても、それ自体が売上を増やすわけではありません。
上限を上げるのは戦略業務だけです。だから、維持業務の効率化はそれ単体では成果にならない。浮いた時間を何に使ったかで、初めて成果になります。
順序はこうなる
ここまでを踏まえると、AIの当て方はひとつに決まります。
会社を維持するための業務と、ベースの成果を担保する業務を、思いきり効率化する。 そして、そこで浮いた時間を戦略的な方針の実行に投下する。
戦略的な方針の実行には、AIで進められる部分もあれば、人がデリバリーするしかない部分もあります。どちらでも構いません。大事なのは、そこに「時間」というリソースを注ぐことです。
浮いた時間の行き先を決めていないと、その時間はだいたい別の作業で埋まります。しかも埋めるのは、たいてい3層のどこにも入っていない業務です。手が空くと、人は目の前にある頼まれごとから片づけます。
いちばんまずいのは、要らない業務を増やすこと
最後に、注意しておきたいことがあります。
定常業務にも戦略業務にも関係のない業務を増やす。あるいは、そうした業務を効率化する。 これは、いくらAIを使っても成果につながりません。それどころかマイナスです。
作った仕組みには維持の手間がかかります。出てきたものを誰かが確認します。増えた分だけ、判断する側の頭も削られます。成果を生まない業務は、増えるほど戦略業務の時間を食います。
AIを入れると業務を増やしやすくなります。手軽に作れるので、思いついたものをつい形にしてしまう。だからこそ、作る前に一度聞いたほうがいいと思っています。
これは、さっきの3層のどこに入りますか。
どこにも入らないなら、作らない。すでにあるなら、効率化する前にやめられないかを考える。そのほうが、成果には近いはずです。