指示は「センス」ではなく「設計」である
「この資料、修正しておいて」とSlackで送った。数時間後に返ってきたものを開く。まったく意図と違うものができあがっている。
「いや、そうじゃなくて……」
こういうとき、マネージャーの頭にはだいたい2つの考えが浮かぶのではないでしょうか。「自分の伝え方が悪かったのか」、あるいは「このメンバーの能力が足りないのか」。
しかし私はどちらでもないと考えています。問題の本質は、指示の"深度"が相手に合っていなかった、ということにあります。
すべての指示には「目的」を添える
まず大前提を一つ。すべての指示には目的を添える。これが出発点です。
目的のない指示は3つの問題を起こします。①命令に聞こえる、②思いつきに見える、③途中で判断できなくなる。
「資料の3ページ目、修正しておいて」ではなく、「来週のプレゼンでは商品Bを一番アピールすべきだから、3ページ目を商品B中心に修正してほしい」。増えたのはたった一文、時間にして3秒です。それだけでメンバーは「なぜやるのか」がわかり、修正の方向性を自分で判断できるようになります。
目的を共有するとは、メンバーを「指示を受ける人」から「同じ目的を持つ仲間」に変える行為です。目的のない指示は、意図せず上下関係を生み出し、メンバーの思考を止めてしまいます。
ベンチャーでは不確実な目標を追い、正解が見えない中でメンバーの意見を養分にして前進する必要があります。それには、メンバーが主体的に判断できる状態をつくることが不可欠です。目的のない指示はその逆を生み出します。
指示には5段階の深度がある
目的を添えた上で、さらに何をどこまで伝えるべきか。指示は以下の5段階に分解できます。
深度1:目的
「競合の動きを把握して意思決定したい」
深度2:業務内容
「主要競合5社の比較表を作成してほしい」
深度3:業務要件
「比較軸は価格・機能・ターゲットの3つ。来週金曜まで」
深度4:参考情報
「過去に作った表がこのフォルダにある。A社はこのサイトが詳しい」
深度5:具体的なやり方
「このテンプレートでA社から順に埋めて。情報源はこのリストから」
深度が深くなるほど、メンバーが自分で考える余地は小さくなります。
深度5は"最終手段"です。やり方まですべて指定するのはほぼ「作業の代行」を頼んでいるのと同じ。メンバーの思考力も主体性も育ちません。何より「あなたには考える力がないと思っています」というメッセージとして届いてしまいます。
また、「メンバーによって変えています」という方はいらっしゃると思いますが、どういうメンバーにどの深度で伝えるか、その基準まで言語化できている方は少ないはずです。感覚で決めている限り、うまくいく時もあればいかない時もある。これはセンスに頼ったマネジメントであり、再現性がありません。
相手に合った深度を"設計"する
どの深度まで伝えるべきか。考え方はシンプルです。
その業務に対してスキルが十分なメンバーには深度1〜2で十分です。目的と業務内容を伝えれば、要件も進め方も自分で設計できます。細かい指定はむしろ能力を制限し、「このマネージャーは自分を信頼していない」という感覚を生み出します。
一方、スキルが不十分メンバーには深度1〜4まで伝えます。やり方は本人に考えてもらいながら、動くための材料は揃えてあげる。「やり方がわからない」から着手できないのか、「キャパシティオーバー」で手が回らないのかによって対処は変わりますが、深度を一段深くするだけで解決することが多いです。
「どの業務をどの深度で指示するか」をメンバーごとに設計すること、これがマネージャーの明確な業務の一つです。
指示の良し悪しは「何を言ったか」ではなく、「相手に合った深度で伝えたか」で決まります。そしてメンバーが成長すれば、深度を一段浅くしていく。そのサイクルを意識的に回すこと自体が、マネージャーの仕事です。
さいごに
マネジメントは教養や所作ではなく業務です。指示もまた同様に、シートやセリフに落とし込める粒度まで言語化されてはじめて、誰でも再現できるものになります。「どの業務をどの深度で指示するか」を設計する習慣を持つだけで、チームのアウトプット品質は大きく変わるはずです。
「伝えたのに動けない」が起きたとき、伝え方を嘆くのでもメンバーの力量を疑うのでもなく、まず指示の深度を一段変えてみてください。それだけで解決することが、実はとても多いのです。
指示はセンスではなく、設計可能な業務です。
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