はじめに
「今期から方針が変わりました。本部長の意向です」
期初の方針展開ミーティング、こう切り出す課長がいる。メンバーはうなずき、メモを取る。しかし、誰も質問しない。会議室に「諦め」の空気が充満する・・
上からの指示をそのまま下に流す。これはマネジメントではなく「中継」です。特に大手企業のミドルマネージャーに多い悩みが「上からの指示をどうチームに伝えればいいか」というものですが、そもそも問いの立て方が間違っています。「どう伝えるか」ではなく「それがあなた自身の指示になっているか」が問題の本質です。
チーム作りの出発点はビジョンでもMVVでもなく、もっと手前に、もっと地味な問題があります。あなたの指示が「あなたの言葉」かどうか?それだけがチームの命運を分けます。
「横流し」がチームを静かに壊す
「会社が言ってるので」「部長が言ってるので」という言葉がなぜ危険なのか?理由を以下に整理します。
マネージャーの存在意義が消える
指示の発信元が「上」にある以上、メンバーはあなたを飛ばして直接上に聞けばいい。「この人に聞いても部長の言葉が返ってくるだけだ」と思われた瞬間、あなたはチームの中で透明人間になります。そして、当事者でない人間の指示を、誰が真剣に受け取るでしょうか。指示に「なぜ」が乗らない限り、メンバーは動かない。
チームに無力感が蔓延する
横流しの指示が繰り返されると「どうせ上が決めたことだから」という空気が広がります。やがてメンバーは考えることをやめ、指示を待つだけの「作業者」になっていく。大手企業ほど階層が多く、この連鎖が起きやすい。本部長から部長へ、部長から課長へ、課長からメンバーへ。現場に届く頃には「なぜやるのか」が完全に抜け落ちています。その連鎖を断ち切る最後の砦が課長なのです。
指示を"自分の指示"に変換する3つの業務
マネジメントは所作ではなく業務です。「自分の言葉で伝えよう」という心がけだけでは動けない。指示を自分のものに変換するプロセスを3つの業務として定義します。
STEP1.必要性を検証する
上からオーダーが来たら、まず立ち止まる。自分のチームの状況・目標に照らして本当に必要かを考える。必要がないと判断したなら、メンバーに伝える前に上司と対話すべきです。上と下の板挟みになることが課長の仕事ではありません。上に対して自分の意見を持ち、対話できることがメンバーからの信頼の源泉になります。そしてこの「検証する」という行為自体が、あなたを当事者にします。
上の決定をボイコットするのではありません。上司の最終的な決定は受け止める前提で、しかし対話することでその決定を自分のものにするのです。
STEP2.自分の考えとして再構成する
「本部長が言っている」を「自分がこう考えたからこうする」に翻訳する。「会社の方針で残業削減が決まりました」ではなく「このチームの働き方に自分も課題を感じていた。だからこう変えるべき」と伝える。言っていることは同じでも、主語が変わるだけでメンバーの受け取り方は根本から変わります。この翻訳に時間をかける習慣こそが、マネージャーを「伝書鳩」から「意思決定者」に変えます。
STEP3.「私の指示です」と明言する
この一言を添えるだけで、あなたはその指示の当事者になります。逃げ道を断つことで、メンバーからの信頼とあなた自身の当事者性が同時に生まれます。反論されることもある。しかしそれこそが健全な対話の始まりです。「この人は自分の頭で考えている」そう思われるマネージャーのもとで、チームは動き始めます。この3つは難しくない。ただ、習慣にするまでが怖い。だから意識的に、明言する。
さいごに
期初の方針展開で、課長Aは「全社方針なので」と伝え、課長Bは「自分はこう解釈した。だからうちのチームはこうやる」と伝えた。半年後、チームBのエンゲージメントスコアは明らかに高かった・・・
ということが実際起こります。
やっていることは同じ全社方針の実行です。違ったのは、課長の一言目の主語だけです。たった一語の差が、半年後のチームを分けます。
チーム作りとは、制度やイベントで作るものではありません。日々の指示の、一言目から始まっています。
主語を「会社が」「部長が」から「私は」に変えてみてください。
最初は怖いでしょう。なぜなら、メンバーの矢面にあなたが立つからです。
メンバーから「なぜですか?」と問われたとき、逃げ場がなくなる。
しかしその怖さを引き受けた先にこそ、「この人についていきたい」と思われる、チームの起点があります。
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